2018.03.18 ミツバチ
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君は早く大人になりすぎた
誰も気づかないことに
みんな気づいてしまうから
自分の中の幼さに責められて
葛藤と苦しさを抱えてしまった少女
さあ野原で遊びなさい
無力さに翻弄された心の叫びを
我が儘だと決めつける大人など放っといて
花々を巡るミツバチになりなさい

巣箱の中は寂しいだろうか
しかし太陽はまぶしすぎるだろうか
堅くなってしまった心に
出ておいでと誘う声は届くだろうか
それともうつむいて唇をかみしめ
空しく寂しく微笑むだろうか
早く大人になりすぎた少女
何でも気づいてしまう感性の殉教者
自分だけの蜜を集めて飛びなさい

野原の上を旅しなさい
決して高くは飛べないだろうけど
美しい花の香りは君を包むだろう
慎ましく生きる者だけが知る生命の薫りが
早く大人になりすぎた少女
戯れの季節を取り戻すために
君が背負った大人を脱ぎ捨てなさい
通り過ぎてしまった君の春を取り戻して
やがて僕の手からも飛び立ちなさい

2018.03.16 あるがまま
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ありのままで生きられなくても
あるがままには生きられる
でもすべてを受け入れることは難しい
だからそんなことはしなくていい
人生を言葉で飾ることはしなくていい
けれどすべてはあるがままに在る
表も裏もすべてはひとつ
大空を見上げて白い雲を追ってみる
形もなく流れてやがて消え去る自分自身を

ありのままで生きられなくても
あるがままには生きられる
でも他者を理解することは難しい
だからそんなことはしなくていい
優しさを言葉で誤魔化さなくていい
理解などしなくてもあるがままは在る
反射も屈折もひとときの戯れ
川の水面に落ちた花びらを追ってみる
揺られて回転する自分自身をただ見ている

ありのままで生きられなくても
あるがままには生きられる
でも生きることに意味は必要ない
だからそんなことは考えなくていい
納得して安心を買うことはしなくていい
意味が埋葬された場所にあるがままは在る
接吻も抱擁もやがて過ぎ去る
振り返って生きてきた足跡を追ってみる
消え去った痕跡の前に自分自身の今を見ている

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人はみんな新しい人生だけを生きている
そして新しい瞬間の中に感じている
歳月を経たからこそ感じられる喜びや
歳月を経たからこそ感じられる不安も
すべてはかけがえのない豊かさなのだと

新しい人生の慈悲深い大地はいつも過去にある
時間は過ぎ去っても記憶は鮮やかな光を放つ
もう新しい人生が来ないお前の人生さえ
僕に訪れる新しい人生の中に確実に生きている
春に死んだ友の笑顔と拳の痛みも

新しい人生も更新されない人生も
誰かが憶えていてくれて杯を捧げてくれる
嬉しいような寂しいような新しい人生の瞬間に
僕はいつもお前を思い出している
風の街に響いていた懐かしい友の笑い声を

2018.03.01 ブランコ
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大人の気に入る子どもになれない子どもたち
ブランコに乗る制服のスカートを揺らして
君は空高く飛び立とうとしている
けれど何処にも行けない君の心を見たのは僕だけ
空しく揺れる振り子の孤独を

大人の気に入る子どもになれない子どもたち
ブランコのように揺れる心を抱えて
視線を避けながらうつむいて歩く駅前の道
人は苦手だと呟く君の言葉を聴いているのは僕だけ
探して欲しいと云えない君を

大人の気に入る子どもになれない子どもたち
今日も君はブランコに乗るだろう
愛のない地上にほんのひととき別れを告げて
青い空の上に居場所を探す君を知っているのは僕だけ
大人に気に入られない大人の僕だけ

2018.02.01 優しい定食
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定食屋の小さなテーブルに座ると
すぐ隣におばあさんが後を追うように腰掛けた
店員に定食を注文していると横から
同じ物をお願いしますと声が聞こえた

何処がいいのか迷っていたけど
兄ちゃんがこの店に入ったから真似したよ
何が美味しいのか分からないからそれも真似させてね
おばあさんはそう言うと笑いながら話し始めた

年寄り夫婦二人じゃ食事はほとんど作らない
お昼は毎日外食だから飽きちゃってね
何が出てくるか知らないけど私は好き嫌いがないから
おばあさんはそう言うとまた笑った

この歳になるともう何の楽しみもない
孫の成長だけが楽しみでね
生きていてもしょうがないんだけど
おばあさんはそう言って口を押さえながら笑った

もう死のうかと思うこともあるけれど
部屋が片づいてなかったらみっともないから死ねないしね
それでなんとなく生きているよ
おばあさんはそう言って今度は静かに笑った

やがて定食が同時に運ばれてきた
おばあさんは唐揚げとチキンカツの量に驚いて
これは美味しそうだねと喜んだ
ここの定食はボリュームが凄いんだよと僕は笑った

おばあさんは初めての店に少し戸惑っていた
はいこれはおしぼりね
これはふりかけだから自由に食べていいんです
僕は説明しながら少し照れながら笑った

そしてこっちがソースでこれは辛子
サラダにはこのドレッシングをかけて
皿のおろしポン酢は唐揚げを付けて食べるんです
店員と目が合ったので頷いて笑って見せた

おばあさんは隣で何度も同じ言葉を呟いた
兄ちゃんありがとう優しいね
何度も何度も呟いて頭を下げた
僕とおばあさんはそのとき一緒に笑った

食べ終わると僕はコーヒーを飲み
おばあさんはお茶をすすった
僕とおばあさんはお会計も一緒に済ませて店を出る
二人は心を洗うような白い雪を見上げてまた笑った