FC2ブログ
2018.09.05
angel-3211454_960_720_convert_20180905184712.jpg

私に似合う翼をください
大きすぎたり
小さすぎたりしない
丁度いい翼をください
金の翼も
銀の翼もいりませんから
白い翼をください
線のない自由な空をください

私に似合う翼をください
重すぎたり
軽すぎたりしない
丁度いい翼をください
未来の翼も
過去の翼もいりませんから
今という翼をください
壁のない自由な空をください

私に似合う翼をください
あなたのでも
誰かのでもない
私だけの翼をください
優秀な翼も
特別な翼もいりませんから
等身大の翼をください
迷う自由のある空をください

clown-1394135_960_720_convert_20180807092756.jpg

叔父さんにお小遣いをねだりなさい
義理の叔母は薄笑いを浮かべて小学生の僕に云った
僕は彼女のショーに見世物として呼ばれたのだった
貧乏な親戚を小馬鹿にしている彼女がなぜ僕を呼んだのか
それはすべて優越感というショーの為だと知った
観劇するのは見覚えのない親戚とその子どもたち

僕がそれを断ると叔母はしつこく迫った
叔父さんにお小遣いを頂戴と云いなさい
僕は叔父の前に歩み出て叔母を振り返った
人を蔑む残酷で嫌らしい視線が僕を貫いている
叔母は顎で合図して僕を急かしている

叔父さんお小遣いをください
その瞬間にそこにいた全員が静まりかえった
そして次の瞬間には大笑いが起こった
叔父さんは財布から誇らしげに1万円を出す
ありがとうございますと僕はうなだれた

うなだれた僕の耳に叔母の笑い声が響いた
叔母は満足そうに薄ら笑いを浮かべて僕を見ている
僕は惨めで貧乏な道化の子どもだった
彼女はショーを終えた僕に今度は帰れと云った
僕は1万円札を握りしめて親戚の劇場を出た

夏の入道雲を見上げてため息をついた
油蝉の鳴く声と蔑みの笑い声が路上に漂っている
哀れな道化のショーのギャラを手にして歩いた
この世の全てのものが憎かった
それが小学生だった僕の悔しい夏の思い出だ

a0070_000280_convert_20180801074458.jpg

地下鉄から続く長い階段を
ひとりの老婆が上ってゆく
右手はステンレスの手摺りを握り
左手には買い物のキャリーカートを持って
ポッカリと夏の空が浮かぶ出口まであと17段

荷物を持ちましょうかと話しかける
老婆は息を切らしながらありがとうと云った
そして立ち止まって腰を伸ばして階段を見上げた
もう少しだから自分で頑張ってみます
ご親切にありがとうねお兄ちゃん

老婆はまた腰を屈めて一歩ずつ階段を上る
生きてきた人生を踏みしめるように
強くて謙虚な足音が平成の夏を昭和に巻き戻す
もう少しだから自分で頑張ってみます
その言葉を僕は自分の心に刻みつけた

人気のないロータリーの日陰に寄り添い
僕は地下鉄の出入り口を静かに見つめていた
タバコを咥えて一息つくと
階段を上りきった老婆が姿を見せた
大きく深呼吸をした老婆は微笑んでまた頭を下げた

2018.07.20 セイレーン
a0027_002915_convert_20180720095942.jpg

僕の夏は止まったまま動かない
まるで一枚だけ残った写真のように
やり直しも撮り直しも出来ないあの日の海が
色褪せることもなく鮮やかに
恋心という青いフレームに飾られている

手を繋いで潜ってゆく深海は静かな世界
耳の奥には小枝の折れるような小さな音が響き
皮膚からは潮の香りがしみこんでくる
告白は水に溶け込んで気泡となって上ってゆく
君は優しく笑って首を横に振る

人の子は移り気だから一緒には暮らせない
瞳の奥から君が呟く声を聴いていた
珊瑚の枕も白い砂のベッドも未来を語ることはない
君は一度だけ接吻すると長い足をひるがえして
僕に小さく手を振りながらまた笑った

僕の夏は止まったまま動かない
打ち寄せる波の砂浜に座って水平線を見ている
手の届かない沖の波間から君が泳ぐのを見ている
始まることも終わることもない恋心
僕を溺れさせた少女の名前はセイレーン

2018.06.29 創る
beach-2946142__340_convert_20180629185003.jpg

完成することの安心は

完成することの喪失感を連れてくる

賞賛される喜びは

賞賛されることの重荷を運んでくる

創るというこの厄介な仕事は

痛みの中に生まれ喜びと共に死す

死の中に再生し大声で叫んでまた死する

創るということは永遠の分娩室

創るということは永遠の火葬場

ゼロから巡り来てまたゼロに帰する旅路