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2019.10.04 下駄箱の天使
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小学校の下駄箱の前で
成長の少し遅れた男の子が苦戦している
左右を取り違えた靴を履き直し
剥がしては閉じるマジックテープにからかわれながら
その様子を囲んで女の子たちが励ましている
頑張れ!頑張れ!と
男の子は戸惑いながら微笑んでいる
そしてやがて靴を履き終える

白い帽子に黄色い傘に大きな水筒
ランドセルに体育着の入った袋を小さな体で背負い込んで
右手でズレた眼鏡を直しながら左手で鼻水を拭く
そして男の子は歩き出す
女の子たちは一緒に歩き出して大きな声で叫ぶ
傘をさして!傘をさして!と
男の子は微笑みながらも傘のボタンにまた苦戦している
頑張れ!頑張れ!と女の子たちの声が応援している

小学校の下駄箱には天使が住んでいる
大人が忘れてしまったものを教えてくれるために
少し成長の遅れた男の子と
それを励ましながら待ってくれる女の子たち
急に降り出した雨の中で一斉に開く黄色い傘の群れ
野原に咲いた花のように美しく揺れている
よろめきながら歩く男の子の後ろ姿にまだ手を振っている女の子たち
共に生きることの意味を噛みしめた雨の日の下校時間

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真夏の暑い日には電柱の日陰で眠り
冬の寒い日には車の下で寝ていた兄弟猫
いつの間にか兄は去り一匹になってしまった白黒の猫
先日の台風で雨風に打たれ雑巾のようになってしまった彼を見た
気の良い老婆が差し出す餌を玄関の前で待ち
前足で戸口に催促をする姿を見ながら辛くなった

そして彼もまた静かに去った
暑くも寒くもない天国へと旅だったのだろう
それから一週間が経っても彼のお椀は玄関の横にあった
彼が毎日そこで餌を食べていた頃そのままに
そして今日は玄関の前の彼のお椀は片付けられていた
背中を丸めて餌を頬張る彼はもういない

夏と共に彼は去った
ふと横を通り過ぎる兄弟猫の気配を感じた
しかし振り返ってもそこに彼らはいなかった
彼らが暮らした懐かしい路地には彼らの魂だけが遊んでいる
兄弟仲良く寄り添って道の真ん中に寝ていた白黒の猫
慎ましく生きた兄弟猫の一生を僕はそっと心に刻んだ

2019.08.15 8月に詫びて
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ヒロシマに原爆が投下された日
テレビで特集番組を観た
その夜に僕はステーキを食って酒を飲んだ
被爆者が泪で訴えた風化という言葉が頭をよぎった
そしてあまりに鈍感な自分に苦笑した

長崎に原爆が投下された日
山の上から青空と白い雲を見ていた
手を合わせることもなく2日間が過ぎ
風呂に入っている最中に長崎のことを思い出した
そしてあまりに無頓着な自分にため息を付いた

8月15日の終戦記念日
午前11時5分までそれを忘れていた
昼は何を食おうかと思いを巡らせていた
知らない戦争への実感の無さと平和ボケした今日
そしてあまりに軽薄な自分に驚いた

何を見ても何を聞いても
まるで他人事のように思えてしまう心の貧しさ
誰が泣いていうようと苦しんでいようと
僕の唯一の興味は自分自身の事でしかない薄情さ
8月は自分の愛情の足りなさに詫びる日だ

2019.07.19 執行猶予
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未来の自分に準備しなければならない
外見の美しさが去った後に残る何かを
未熟な可愛らしさが免罪符を与えている間に
準備しなければならない
年老いて自信をなくしてしまう前に

執行猶予はそんなに長くないから
準備しなければならない
若さも美しさもやがて手放さなければならないことを
知っておかなければならない
空っぽの自分に気づいてしまう前に

鏡の前で白髪を見つめ皺を数えるのなら
自分に残っている不変の美しさも数えなさい
いま何に時間と金を費やすべきなのか
若さにすがり付くのを止めれば
老いることはそんなに悪くないと思える

2019.07.15 君と君たちと
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人と人はいつでも一対一
それが十把一絡げになったとき
傲慢さが生まれ誤解が生じる
僕と君はいつしか
僕と君たちになり
顔のない存在になる
そうならないように
僕は君の顔を見つめる
君の心にかけがえのない生命を見いだす

僕は君の君たちだろうか
それとも君だろうか
その他というシールは貼られていないだろうか
時々不安になる
君が君のままでいられる時間を
僕が僕のままでいられる時間を
昔話すら出来ない友もいる
天国はあまりに近くて遠いから

僕は海で桜貝を拾う君の横顔を忘れない
僕は君の拳が叩いた頬の痛みを忘れない
君はいつまでも君たちではない
十把一絡げではない人と人
真っ直ぐにその顔を見つめて
僕は自分の傲慢さを隠していたい
愛情の足りない僕の為に
この世でたったひとりの君の為に
僕は君の名前を故郷の空に叫ぶ