2018.03.01 ブランコ
a0001_003054_convert_20180301100641.jpg

大人の気に入る子どもになれない子どもたち
ブランコに乗る制服のスカートを揺らして
君は空高く飛び立とうとしている
けれど何処にも行けない君の心を見たのは僕だけ
空しく揺れる振り子の孤独を

大人の気に入る子どもになれない子どもたち
ブランコのように揺れる心を抱えて
視線を避けながらうつむいて歩く駅前の道
人は苦手だと呟く君の言葉を聴いているのは僕だけ
探して欲しいと云えない君を

大人の気に入る子どもになれない子どもたち
今日も君はブランコに乗るだろう
愛のない地上にほんのひととき別れを告げて
青い空の上に居場所を探す君を知っているのは僕だけ
大人に気に入られない大人の僕だけ

2018.02.01 優しい定食
a0001_000559_convert_20180201135314.jpg

定食屋の小さなテーブルに座ると
すぐ隣におばあさんが後を追うように腰掛けた
店員に定食を注文していると横から
同じ物をお願いしますと声が聞こえた

何処がいいのか迷っていたけど
兄ちゃんがこの店に入ったから真似したよ
何が美味しいのか分からないからそれも真似させてね
おばあさんはそう言うと笑いながら話し始めた

年寄り夫婦二人じゃ食事はほとんど作らない
お昼は毎日外食だから飽きちゃってね
何が出てくるか知らないけど私は好き嫌いがないから
おばあさんはそう言うとまた笑った

この歳になるともう何の楽しみもない
孫の成長だけが楽しみでね
生きていてもしょうがないんだけど
おばあさんはそう言って口を押さえながら笑った

もう死のうかと思うこともあるけれど
部屋が片づいてなかったらみっともないから死ねないしね
それでなんとなく生きているよ
おばあさんはそう言って今度は静かに笑った

やがて定食が同時に運ばれてきた
おばあさんは唐揚げとチキンカツの量に驚いて
これは美味しそうだねと喜んだ
ここの定食はボリュームが凄いんだよと僕は笑った

おばあさんは初めての店に少し戸惑っていた
はいこれはおしぼりね
これはふりかけだから自由に食べていいんです
僕は説明しながら少し照れながら笑った

そしてこっちがソースでこれは辛子
サラダにはこのドレッシングをかけて
皿のおろしポン酢は唐揚げを付けて食べるんです
店員と目が合ったので頷いて笑って見せた

おばあさんは隣で何度も同じ言葉を呟いた
兄ちゃんありがとう優しいね
何度も何度も呟いて頭を下げた
僕とおばあさんはそのとき一緒に笑った

食べ終わると僕はコーヒーを飲み
おばあさんはお茶をすすった
僕とおばあさんはお会計も一緒に済ませて店を出る
二人は心を洗うような白い雪を見上げてまた笑った

a0001_017607_convert_20180109085242.jpg

言葉が通じなくなったから
僕たちは機械と会話する
人間など面倒なだけだから

譲り合いも駆け引きも落胆もない
機械が全てを肯定してくれる
従順で賢く面倒見のいい執事がいれば
僕たちはいつまでも王様でいられる
そう世界中が停電になるまでは

奇妙で便利なシステムの進化は止まらない
そして僕たち自身の退化も止まらない
言葉が通じなくなったから心も通わない
その代わりに電気と電波で繋がっている
世界中の誰もが孤独な王様のようだ
僕の目の前には誰もいない
液晶画面の魔法の鏡があるだけだ


心が通わなくなったから
僕たちは機械と通い合う
人間など面倒なだけだから

家族も恋人も友達もいらない
機械が相手をしてくれる
文句も言わず説教もしない執事がいれば
僕たちはいつまでも王様でいられる
そう世界中が停電になるまでは

滑稽で重宝するシステムの進化は止まらない
そして僕たち自身の退化も止まらない
心が通わなくなったから愛も枯れ果てた
その代わり電気と電波が請求書をくれる
世界中の誰もが孤独な王様のようだ
目の前の君と手を繋いで歩く夢を見ながら
僕は今日もボタンを押して執事を呼び出す

2017.12.23 洗心
P1020036_convert_20171223091642.jpg

神社の鳥居をくぐる度に頭を下げる
1度目は冷笑してみた
神は留守なのだと思っていたから

神社の鳥居をくぐる度に頭を下げる
3度目は面倒だと思った
神は面会拒絶と思っていたから

神社の鳥居をくぐる度に頭を下げる
9度目は自分を小さく感じた
神は愚か者の頬に寒風を投げつけるから

神社の鳥居をくぐる度に頭を下げる
もう数えるのをやめてしまった
神は傲慢な僕の心に謙虚さを教えている

神社の鳥居をくぐる度に頭を下げる
心が洗われて静粛に還った頃
神は頭を下げることの本当の意味を僕に教えた

2017.11.23 忘れられた石
angkor-wat-2444529__340_convert_20171123095851.jpg

自然は絶え間なく
人間のしたことを元に戻そうと
休まず確実に動いている

自らの体についた疵を
自らの手で時間をかけて癒やしながら
人間の業を拒絶している

愚痴ひとつ云わずに
堂々と力強く寡黙に生命を蘇らせ
根を石の隙間に差し込んでゆく

やがて人間の積み重ねた石の
文明という虚構は瓦解してしまうだろう
なんと美しい滅びと再生の物語

何者かになることも
何かであらねばならない憂鬱も
すべては夢の砂塵と化す美しい森

まるで子どもが脱ぎ散らかした服を
母親が拾って歩くように
自然は人間の身勝手を拾って歩く

千年巡って元通り
万年巡ってまた太古に帰るのだろう
僕がここで生きたことも忘れて