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地下鉄から続く長い階段を
ひとりの老婆が上ってゆく
右手はステンレスの手摺りを握り
左手には買い物のキャリーカートを持って
ポッカリと夏の空が浮かぶ出口まであと17段

荷物を持ちましょうかと話しかける
老婆は息を切らしながらありがとうと云った
そして立ち止まって腰を伸ばして階段を見上げた
もう少しだから自分で頑張ってみます
ご親切にありがとうねお兄ちゃん

老婆はまた腰を屈めて一歩ずつ階段を上る
生きてきた人生を踏みしめるように
強くて謙虚な足音が平成の夏を昭和に巻き戻す
もう少しだから自分で頑張ってみます
その言葉を僕は自分の心に刻みつけた

人気のないロータリーの日陰に寄り添い
僕は地下鉄の出入り口を静かに見つめていた
タバコを咥えて一息つくと
階段を上りきった老婆が姿を見せた
大きく深呼吸をした老婆は微笑んでまた頭を下げた

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