2017.03.07 天国への手紙
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元気でもなく 生きてもいない 天国にいるKへ

俺は田舎から電話が来ると今でもドキリとするんだよ
1度目は同級生がトラックの荷台から転落して死んだって電話

2度目はKよ お前が車の中で死んでいたって電話だよ
Kよ 親友なのに葬式に出られなくて悪かったな
俺は昔から薄情な男なんだ 知っているだろう

それから 3度目はお婆ちゃんが死んだって電話だったよ
親代わりのお婆ちゃんだったから
義理を果たすために慌てて田舎に帰ったよ
その時お前の嫁さんのMに会ったんだ
仏壇に線香をあげてお前の写真を見たよ
しばらく会わないうちに白髪が増えたお前を見て
妙に泣けてきたのを覚えているよ
そう言えばMと別れるときに母親に写真を撮ってもらったんだ
Mは嬉しそうに「この人はKの親友で有名人なんだよ」ってはしゃいで
だから「もっと有名になる前に写真を撮ってよ!」って笑った
俺は有名人じゃないけど
田舎では一番の変わり者だったから否定はしなかったけどね
そして もっと有名にはならずにいるよ

それから1年して 4度目の電話が鳴った
お前の嫁さんのMが死んだって電話だったよ
でもMの葬式にも俺は行けなかったんだ
だから 代わりに詩を書いて贈ったよ
Mの棺桶の前で仲間の誰かが読んでくれたと後で聞いて泪が出たよ
学生時代から恋人同士だったKとM
誰よりも早く結婚しちまったKとM
その結婚式で俺が唄った歌を今でも覚えているよ
でもあれ以来 もうその歌は唄わないことにしたんだ
嬉しそうに寄り添ったお前らを思い出すからな

そんな感じだから 田舎から電話が来るとドキリとするんだ
たまに電話があると「また誰か死んだな」って思うようになっちまった

まあ あれから10年 
俺はお前には来なかった歳月を生きたよ
強気で生きてきたんだけどたまには弱気にもなる
そんな時はいつもお前が出てくる
そして「生きている奴が、文句言うんじゃねえよ!」ってお前が言うんだ
すると俺は「死んだ奴が説教するんじゃねえよ!」って笑う
そうすると不思議に力が湧いてくる
真っ正直に そして時には 自分を誤魔化して生きた10年だったよ
そして 電車の中で一列に座って全員がスマホを見ている時代に辟易し
世界を旅しては飲んだくれて 憂さ晴らしをしてきたよ
日中は独りで毎日のように池の畔で釣りをして
日が暮れればまた酒を飲む 来る日も来る日も酒を飲む
普段は誰にも会わず 話しもしない

今年で10年が過ぎたけど
お前も嫁さんのMも俺には前より近く感じるんだ
俺が長い間 田舎を留守にしてお前らと話せなかった分
俺はこの10年で釣りをしながら 酒を飲みながら
お前らとたくさん話しをしたような気になってる
お前にはやってこなかったこの10年の
自慢話や愚痴を話したような気になっている

でも天国に手紙を書くのは初めてだ
いや もしかするとそこは地獄かな
いずれにしろ俺もいずれはそこに行くんだろうな

その前に 今夜は新しい焼酎を買ってきたから
KとMと俺と仲間たちが写っている写真をテーブルに飾って
みんなで一杯やろうじゃないか

3月に桜の咲くのも待たずに逝ったK
俺の写真は入れずに送るよ
今じゃお前よりも白髪が増えたからな

永遠に歳を取らないお前らと

どんどん歳をとってゆく俺にも

もうすぐ また春が巡って来るよ      S.Y

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