FC2ブログ
2009.08.18 花売りの少年
花売りの少年

アジアの片隅の路上を
僕を乗せたタクシーが走る
赤信号で止まったそのタクシーに
こども達は一斉に駆け寄ってくる
その手には花を持って

後部座席のガラスを叩いて
その少年は花を掲げた
やけに黒くて大きな瞳に
僕は思わず顔を背ける
閉じたままのガラス越しに
少年は「花を買って」と叫んでいる
いや多分そうだと思うだけで
言葉はまるで分からない

やがて信号が青になり
タクシーはまた走り出す
走り出せないあの少年の暮らしを引き摺って
僕は走り出す

いつか神様を信じるかと問われたことがある
その問が頭の中でまた響いた
疾走するタクシーの窓越しに焼き付いた
あの少年の黒くて大きな瞳
悲しく微笑んだ口元に詫びながら
「神様は留守なのだと」呟いた

タクシーを降りて
行くあてもなく市場の雑踏の中を歩いた
色とりどりの美しいシルクの服が
風に吹かれて揺れていた
僕はこのアジアの片隅に
どこかへ出掛けてしまった神様を探していた

あの少年から花を買えば
僕はあの少年を忘れてしまったかも知れない
かりそめの施しでその場をつくろうより
痛みを抱えた友のために
そのことを伝えるひとりになりたかった

いつの日かあの少年に会いに行きたい

売り物ではない

花を抱えて





スポンサーサイト