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ホームに杖を持った老人が立っていた
やがて電車が到着して静かにドアが開くと
老人は小刻みに前進した
動かない片足を引き摺りながら
杖の先に力を込めて少しずつ近くて遠い車内へと

車掌は心配そうにそれを見守った
電車のドアはその老人だけを待ったまま開いている
入り口の席には小学校の制服を着た二人の女の子が座っている
二人の女の子は老人を黒い瞳で追いながら
入り口の席を老人のために慌てて譲った
老人の片足が電車の内側へとたどり着く
もう片方も電車の床を踏みしめる
車掌は合図を出して警笛を吹く
電車のドアが待ちかねたように急いで閉まる

電車が動き出し
老人は席の手摺りにしがみつく
おぼつかない足元が振動を堪えている
二人の女の子はそれを心配そうに黙って見つめている
老人の動かない片足が向きを変えて座る用意が出来るのを
二人の女の子は顔を見合わせて何かを話している
手摺りと窓にしがみつきながら老人は腰を下ろそうとしている
誰もがそれを見守っている

そのとき老人の手から滑り落ちて杖が床に転がった
向かいに座っている中学生の男の子はそれを拾い上げる
何かを決意したようなしっかりとした眼差しで
男の子の手は渡せない杖を握ったまま待っている
まだ席に座れない老人を待っている
男の子は優しく笑みを浮かべながら待っている
紅いほっぺたをして男の子は待っている
老人が席に座るのを待っている

老人がようやく席に座って顔をあげたとき
男の子は恥ずかしそうに杖を差し出した
老人は頭を下げてお礼を言った
男の子は恥ずかしそうに微笑んで頭を下げた
二人の女の子も微笑んでそれを見ていた
やがて他人同士が乗り合う電車の中に
家族のような温かさが満ちた
しかしそれは効き過ぎた暖房のせいではなかっただろう

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