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木の実は誰のもの?

アジアのどこか辺境の地に小さな村がありました。
その村はとても貧しく、村人たちは毎日わずかな食事にしかありつけません。
全員が少しずつ食べる分だけのわずかな作物しかそこでは取れなかったのです。
ある日、こともあろうにそんな貧しい村を嵐が襲いました。
風は3日3晩吹き荒れて、畑を流し、果物の木からはその果実を奪い去りました。
やがて、嵐が止んで村人が壊れかけた家から出てきました。
「おお、なんてことだ!畑も果物も全部嵐にやられてしまった!」
そこには無惨な光景が広がっていました。
仕方がないので村人たちは手分けして食料を探しに出掛けました。
この3日間というもの誰も、何も食べていなかったのです。
そして、村から遠く離れた場所を3人の男が食べ物を探して歩いていると、その行く手に一粒の木の実が転がっていました。
すると、一番背の高い男が叫びました。
「どうだ。木の実を見つけたぞ!こいつは俺のものだ!」と、そう叫びました。
すると、もう1人の背の低い男が言いました。
「何を言っている!それは私のものさ!」といいながら木の実を拾い上げました。
すると、最後の太った男がそれを横取りして言いました。
「いや違う!おいらのものさ!」
3人はたちまち大げんかになり、木の実を奪い合うため取っ組み合いを始めました。
しかし、中々勝負が付かずに3人ともへとへとになってその場に座り込んでしまいました。
仕方がないので3人はその木の実を村に持ち帰り、本当は誰のものなのかを村長に決めてもらうことにしました。
3人は村に帰ると村長に今まであった事情を話して、誰のものなのか決めて欲しいと頼みました。3人は口々に自分の物だと言い張り、一向に筋立てて話を聞くことが出来ません。村長もあきれ果て、どうしたものかと考えていました。
しかし、それを横で聞いていた村長の一人息子が口を挟みました。彼はまだ若く、とても賢い青年でした。
「その木の実は何処で見つけたのですか?」
背の高い男が自慢げに言いました。
「そいつは、俺の足元に転がっていたんです」
「そうですか、あなたが見つけたのですね?」
すると、背の低い男が不満そうに言いました。
「拾ったのは私が先なので、それは私のものです」
「そうですか、あなたが先に拾ったのですね?」
最後に太った男が勝ち誇ったように付け加えました。
「誰が見つけて、誰が拾い上げたとしても、今その木の実はおいらが持っているんです」
「そうですか、それで、今はあなたが持っているのですか。父上、おおよそ3人の言い分は聞いての通りです」
ようやく事情の飲み込めた村長は、頼もしい息子に微笑むと静かに話し始めました。
「簡単に話をするが、わしの答えはこうだ。わしはこの村の村長であるから、わしの治めるこの大地に落ちていたその木の実はわしのものであろう。どうかな?」
3人はお互いの顔を見合わせて、不満そうな顔をしましたが、村長にそう言われれば黙るしかありません。
「どうかな?不満そうな顔をしているように見えるが、この木の実はわしのものかな?」
3人は大地に頭を付けて小さな声で答えました。
「その木の実は、村長のものでございます」
「そうか、それではこれで争いごとは終わりだ。村の広場に村の者を全部集めなさい」
村長は息子にそう言いつけると席を立ちました。
しばらくすると村人たちが広場へ集まり出しました。みんな空腹のせいか少し元気がありません。不安そうに大地に視線を落としながらうなだれている者もいます。村長は今日あった3人の出来事をみんなに話して聞かせました。
「今日、食料を探しに行った3人の者が木の実を見つけた。3日間も何も食べていないにもかかわらず、この男達は木の実を食べずに村へ持ち帰った。そして、この年老いて何の役にも立たない村長のわしにその木の実を差し出してくれたのじゃ。その者は、その場に立ちなさい」
3人は目を丸くして、恥ずかしそうに頭を掻きながら立ち上がりました。すると、どこからともなく拍手が始まり、その拍手で広場は包まれました。
「元々、貧しいここ村は、先日の嵐で前にも増して貧しくなった。しかし、この3人のように心までは貧しくなっておらん。わしは、この3人を誇りに思う」
その時、誰かが前に歩み出てきました。それは、1人や2人ではありませんでした。彼らはポケットからそれぞれひとつずつ木の実を出しました。その中の青年が緊張した面持ちで口を開きました。
「実は僕も村の外れでこの木の実を見つけたのです。しかし、見つけたことは一緒に行った仲間には黙っていたのです・・・」
すると、言葉を遮るように村長の息子が大声で叫びました。
「父上、実はこの者達が内緒にしていたのはこのことなのです。この木の実をよくご覧ください!実から芽が出ていますよ。これは種です。何の種かは知りませんが、もしかしたらこの種から何か食べられる物が出来るかもしれません。そのことを伝えて全員をびっくりさせようと今まで黙っていたのです」
村長の息子がそう言い終わると、前に出てきた人々は、笑顔を浮かべ誇らしげにその木の実を村長の前に差し出しました。
「そうか、今日はよい日だ。苦しみの後には喜びが訪れる。そのことをわしはこの嵐から学んだ。そして、何処のどの村よりも、この村は豊かであることを知った。どんな時でも「大事なことは何か」ということを忘れなければ、人は永遠に死ぬことはない。そして、わしが去った後もその優しさをつぐものがこの村をひとつにするであろう」
広場に集まった村人たちは、村長に拍手を送り、村長の息子に歓声を送りました。
そこにいた誰の目にも優しさがあふれ、反省の後の爽やかな風が通りすぎてゆきました。
それから、村人たちはその木の実を大地に植えました。日に日にその芽はぐんぐん育ち、やがて、多くの実を結んだのです。
しかし、もしあの時、木の実を拾ったそれぞれがその実を食べてしまっていたらどうなっていたことでしょう。もし、嵐の後の飢餓で少し自分を見失ってしまっていた村人たちを叱りつけたらどうなっていたでしょう。妙案を思いついた村長の息子は、自分の弱さを知っていたから、他人の弱さを咎めなかったのでしょう。そして、助け合うことの強さを誰よりも信じていたのでしょう。
あの村長の息子は、誰からも慕われる優しい村長として、このアジアの辺境のどこかの村で、今でも暮らしているそうです。





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