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僕は大震災のような大きな地震を体験したことはない。しかし、いまから35年前の僕が12歳の頃に「酒田大火」と言われる大規模な火災を体験している。その日は1976年10月29日だった。10万人が住む港町の中心部がほぼ全焼し見渡す限りの焼け野原と化した。火災で焼失した家屋は1767棟、死者1名、被災者3300名、被害総額は推定405億円。

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火事に乗じて「火事場泥棒」が近隣から押し寄せ、退避支援と称してトラックに金品を積み込んで持ち逃げする事態も発生し、被災者により一層の悲しみを植え付けた。

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僕は夜通し街中を走り回り、燃えて灰になっていく町並みと、泣き叫びながら消火を要請する人々を大勢見た。元来、海風の強い酒田市は別名「風の棲む街」とも呼ばれ、大火当日も台風のような風が吹き荒れ、ボールほどもある火の粉で空は真っ赤に染まっていた。逃げまどう人たちのの上にもそれは容赦なく降り注ぎ、離れた家屋にも延焼することとなった。

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まるで地獄絵図のような夜を過ごし、新井田川という河川の手前で火の勢いは収まった。翌日は至る所から煙が立ち上り、見渡す限りの廃墟。生まれ育った街の懐かしい風景はもうどこにもなかった。

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この火事で1名の消防隊員の方が亡くなられ、多くのけが人が出た。焼け出され多人たちは一夜にして全ての財産を失い、失意のどん底で途方に暮れていた。数日すると日本全国から支援物資が届き、自衛隊が焼け跡の撤去作業のために派遣されてきた。その後、街の復興は思いの他スムーズに進み数年後にはモダンで美しい中心街が復活し、商店街も全て真新しくなってオープンしたのだった。

これがおおよその僕が体験した酒田大火のあらましである。そして、なぜいま僕が35年前の体験を書かねばならないかだ。

確かに街は火事によって被災し多くの苦難を残しながらも見事に復興した。しかし、大火以前の活気溢れる港町酒田の面影は燃えさかる炎が鎮火したように、その賑わいも一緒に消えてしまった。新しくてモダンな町並みを有する商店街は疲弊し、活気は失われた。あれだけ街を闊歩しながら楽しんでいた人々はどこに消えてしまったのか。
僕は街と人の復興は同列のように見えてもまったく違うことを知ったのだった。迅速に都市の復興計画は進んだが、その反面置き去りにされたものがあった。それこそが「人の内面」つまり心である。

今でこそ、「心のケア」という言葉が真っ先に出てくるが、当時は誰もそんなことに配慮していなかったのかも知れない。「財産を失った」という面だけが大きくなりすぎて、「心の復興」にはあまり目が向けられなかったのではないかと思う。僕はこの酒田大火をとても悔しく思う。人の心から灯火を奪った憎い出来事だと痛感している。

2年前に祖母の葬儀で久しぶりに故郷を訪ねたことがあった。故郷は痛々しいほどに疲弊し静まりかえっていた。かつて多くの人で賑わっていた駅前の通りには人影も車もまばら。買い物客で繁盛していた駅前のデパートは更地になり、何年もそのままだという。復興したはずの中心街はシャッター通りとなり、懐かしい店も閉店していた。
僕は懐かしい故郷を当てもなく歩き続け、その度に悔しさで胸がいっぱいになってしまった。2日ばかりの滞在で、帰りの電車に乗り込む前に子どもの頃によく通った立ち食いソバ屋に寄ってみた。せっかく故郷に戻ったのだからあの懐かしい味を噛みしめたかったのだ。出てきたソバは見かけも昔のままだった。一口汁をすすると僕はふと我に返った。「塩辛い」。とても塩辛くて飲めない。主人に尋ねると作り方は昔のままだという。要するに僕自身が変わってしまったのだ。そのことは疲弊した街を見たことよりもショックなことだった。そして故郷と僕の距離は埋めようのないほど離れてしまったことを知って愕然としたのだった。

この度の東日本大震災で心配なのは、ここに書いたような「人の心の復興」である。確かに長い年月をかければ街並みは復興するだろう。しかし、人はどうだろうか?被災を免れた人、財産や仕事を失った人、それにも増して愛する人を失った人。一口に被災者、復興といってもそこには大きな温度差があるだろう。家は家族のために、財産は家族のために、仕事は家族のために、誰もが愛する人を守り平穏に暮らすために慎ましく努力を重ねてきたのではないだろうか。その愛する者を失った人たちは何を心の支えにし、何を目的に復興すれば良いのだろうか。考えただけで胸の痛むことだ。お金で解決できることなら、消費税を3%でも5%でも上げたらいい。国民誰もが明確な復興支援計画を説明されれば反対はしないだろう。しかし、「希望」はお金で買えない。家・街・仕事の復興と同じく、人の心の復興は同時に語られねばなるまい。そしてそれが最も重要で困難な課題であることを改めて心に刻みたい。


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