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もうひとつの黙示録

白と黒の服を着た一人の男の頭の中には、この世の設計図が広げてある。この男は、人間の想像する不確かな存在の神々よりも、はるかに現実的な存在の神であった。そして、その事を誰よりも理解しているのは、この男自身であった。

この男の役目は、地上の全ての人間を無知にしてしまうことであり、その計画は完全に成功しているのであった。なぜなら、人間は彼の存在を知ることも出来ない程に、小さな存在だからだ。彼は人間が興味を持ちそうな玩具を作り出す名人であり、
幾重にも織り込まれた嘘を現実にしてしまう巧みな舌を持っている。人生の基本的な過ごし方を提案し、その行動を常識と道徳という名前で縛った。それゆえに今では、全世界の人間が何の疑いもなく、それを実行するようになったのだ。どんな人間の人生も、さほど違いはないものだと、思い込ませることは、そんなに難しいことではなかった。この男の敵は、この世に稀に生まれ出る思想家と哲学者と宗教家であったが、その思想家と哲学者と宗教家の思考も、この男の脳味噌に基づいて、思考されたものであることを、思想家と哲学者と宗教家本人も知らなかった。そして、その中でも稀の稀に出現する、思想と哲学と宗教を持った者は、この男が放っておいても、周りの人間が殺してくれるのだった。だからこの男は、安心して自分の設計図に署名することが出来るのだった。

そしてこの男には家族があった。その家族たちは、彼の分身であり、そして実行者であった。彼らの目的は人間が余計な事を考えないように、様々な気晴らしを与えることである。そして、そのことに人間が気付くことはない。若者には玩具を大量に与えた。若者は多種多様な玩具を、寝ても起きても手放すことが出来なくなった。その享楽ぶりは、ひとつのスローガンとして共有することにより、真実で正当なものとなったので、誰もそれを疑うことはなかった。そして、大衆からはみ出た一部の者は、大衆から断罪され、彼らもまた、大衆の仲間入りをするのであった。また、働かずに将来に希望も持てない若者の増大は、更にこの男と、この男の家族にとっては好都合な状況であった。将来への希望感は、隠された陰謀を暴露してしまうから危険である。その不満はやがて革命をもたらす種となってしまう可能性があるからだ。だから、希望ではなく、享楽することに夢中になってもらわねばならなかった。この男と、この家族にとっては、この世の仕組みを知ろう、などという若者は厄介であった。その為、ある程度の知恵と情報を与えるのであったが、その情報自体も嘘であることに、気付く者は誰もいなかった。嘘の知恵と嘘の情報を世界の秘密であると、思い込んだ若者は自分の利口さに満足したので、放っておいてもそれ以上何も知られることがない事を、この男と、この男の家族は知っていた。

そして、この男と、この男の家族にとっては、大人ほど扱いやすい人間はいなかった。大人は、信用も権利もない失業者と、偽の信用と偽の権利を持った者の2種類であったので、革命とは無縁の存在であった。彼らは皆、自分の将来を早々と、お金に換えてしまったので、その借金の月賦を支払う為に、人生を売り払った者がほとんどだった。しかし、そのように仕組まれているとは、誰も思わなかった。一般的でいることは、彼らの何よりの関心事であったし、その考えは今や、正義と道徳の象徴として、崇拝されていた。そして、その家族関係は他人も同然であり、単なる戸籍上の血縁関係に過ぎなかった。大人の生活には多少の幸せと不幸が必要であったので、この男と、この男の家族たちは、そうなるような天秤を彼らに授けた。その為、誰もが皆退屈せずに、この男と、この男の家族が決めたレールの上を、自分の創造した人生のように、自信に満ちて歩くのだった。

やがて、時間が過ぎ去り、それぞれの人間が、それぞれの墓場に入る頃に、それぞれの人間が嘆き悲しむ姿を見て、この男と、この男の家族は無知な人間の一生を喜んで、血の様な真っ赤なワインを開けるのだった。そして、この男と、この男の家族の一番の喜びは戦争であった。そして、反戦活動家の虚しい叫びをつまみに、死者の数だけワイン開けるのであった。戦争の大義名分も戦時下のいかなる情報も、この男と、この男の家族が支配していたので、人間は偽の本当の情報を皆、信じては、賛成したり、反対したりするのだった。しかし、人間の本当の興味は冷蔵庫の中の5日前の牛乳が明日の朝にも、飲めるか、飲めないか、ということだった。

人間にとっては、今まであったものが真実であったし、今まで信じてきたものだけが、正義であるから、この男と、この男の家族の設計図は人間にとって、神そのものであった。
しかしそれは不確かな神と同様に、どんな人間にも姿を見せない存在であったので、この男と、この男の家族のことは、永遠に知られることはなかった。そして、この男と、この男の家族の企みで、幾千万の人間が死んでいった。しかし、そんな事には誰も無関心であった。そして、そうなる事を、一番よく理解していたのは、この男と、この男の家族だけであった。
見えない指先で、巧みに操られる世界という幻想の中で、この男は絶対的で唯一の人形遣いであった。そして、この男の遣う人形は人間そのものであった。観客の拍手のかわりに、この男と、この男の家族の足元には、金と権力がうず高く積まれていて、この金と権力によって、更なる金と権力、そして死が果てしもなく生み出されるばかりだった。それは、新しい幸福の証をたてる者が来るまでの間、長い年月続いた。

その者とは、清らかな手にオリーブの小さな葉を握り締めて生まれて来た人間の子供であった。その幼子は世界に新しい幸福の存在の証をたてた。その証によって、人間の目は洗われるのである。やがて、この洗われた目は、今までに誰も見たことのない道を発見する。その道は、洗われた目でしか、見ることが出来ない道である。しかし、新しい幸福の証をたてるこの者は、決して、神と呼ばれることは無かった。そして、この男と、この家族の支配を終わらせる為に、その者は全ての人間の目を、洗わなければならなかった。





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