FC2ブログ
フランスパンを買いに

フランスパンを買いに街へ出掛けた。
その日、パン屋は休みだった。

その次の日もフランスパンを買いに街へ出掛けた。
店のフランスパンは全部売り切れだった。
仕方が無いのでイギリスパンを買った。
食べ切れずに半分捨ててしまった。

その次の次の日もフランスパンを買いに街へ出掛けた。
バスケットに一本残ったフランスパンをガラス越しに見つけた。
青い水玉のリボンを付けた女の子がそれを手に取った。
私のフランスパンを見知らぬ子が横取りした。
私のフランスパンは茶色い袋に入れられて買われていった。
仕方が無いのでクリームパンを買った。
甘すぎたのでひとくち食べて捨ててしまった。

その次の次の次の日もフランスパンを買いに街へ出掛けた。
沢山のフランスパンが運ばれてきた。
私はバターを買う為に後ろを振り向いた。
店に大きな音がこだました。
眼鏡をかけた出来の悪そうな店員が、
私のフランスパンを全部床に撒き散らしてしまった。
買い損ねたフランスパンは今、私の足元に転がっている。
仕方が無いのでカレーパンを買った。
具がこぼれ落ちて、いっちょうらを台無しにしてしまった。

その次の次の次の次の日もフランスパンを買いに街へ出掛けた。
焼き上がりの時間を心得ていた。
そして沢山のフランスパンが運ばれてきた。
「ひとつください」と声を掛けたら、
「予約の品です」と真面目そうな店員が答えた。
そのフランスパンは生まれた時から、
すでに私のものではなかった。
腹が立ったので私もフランスパンを予約しようとした。
「10本からです」と断られた。
仕方が無いのでサンドウィッチを買った。
苛立ちながらビニールを破ったら、
全部飛び出して地面に落ちた。

その次の次の次の次の次の日もフランスパンを買いに街へ出掛けた。
いつもと違う場所に3本のフランスパンが並んでいた。
店にはひとりの客も居なかった。
フランスパンは買われていく時を待っていた。
いちばん出来のいいフランスパンを探す為に、
私は1本づつ注意深く見つめていた。
そして、1本手に取ると、声が聞こえた。
「それは、飾り用の見本品です」と。
仕方が無いので小さなパンのアソートを買った。
どのぱんもみすぼらしく見えた。
食べたいパンはその中にはひとつも無かった。
私はそれを地下鉄のホームのごみ箱の中に放り込んだ。
乗り損ねた電車が目の前を通り過ぎて行った。

その次の次の次の次の次の次の日もフランスパンを買いに街へ出掛けた。
2時間待ってとうとう私は、
私だけのフランスパンを手に入れた。
私は私だけのフランスパンを抱いて家へ帰った。
冷蔵庫を開けたら、
バターもジャムもマーマレードも切れていた。
私は溜息をついた。
そして私の為だけに存在している私のフランスパンを、
テーブルの上に置いた。
寝転がって私は私だけのフランスパンを見つめていた。
そして私は何故それほどまでに、
こんなものが欲しかったのかと考えていた。
そして考えながらいつの間にか眠ってしまった。





スポンサーサイト