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2009.08.18 2匹の犬
2匹の犬

茶色い飼い犬が、いつものように玄関先に座っていると、その前を一匹の白い野良犬が通りかかった。
「おい君、何処に行くんだい」飼い犬は野良犬に声を掛けた
「別に」野良犬は答えた。
飼い犬は言った。
「こんな所をうろついていると保健所に連れて行かれるよ」
「保健所って、なんだい?」
「悲しい所さ」
「そうなんだ。君の方こそ何しているんだい?」
「怪しい奴が来ないか見張っているのさ」
「大変だね」
「別に」飼い犬は目をそらして答えた。
飼い犬は言った。
「お腹がすいているように見えるけど、大丈夫かい?」
「もうぺこぺこだよ」野良犬はため息をついた。
「良かったら、柱の所に食べ物があるよ。僕の朝ごはんの残りだけど」
「それはありがとう。頂くよ」野良犬は勢いよくそれを平らげた。
野良犬は言った
「おいらは野良犬だから、いつも食事にありつけるとは限らないんだ」
「飼い犬になれば、いつも食べられるよ」
「そうなんだ」
「でもね、その前に多少儀式があるんだよ」
「何の儀式だい?」
「なんてことはないよ。少しばかり手をあげたり、座ったりね」
「手をあげたり、座ったりしたらいいんだね」
「そうだよ。でもあんまり気が進まない時もあるけどね」
「そんな時は、やらないんだろ?」
「やるよ」飼い犬は少し目を伏せた。
「嫌な時もやらなきゃならないんだね」野良犬は言った。
「僕は飼い犬だから、それが仕事なんだよ」
「自由じゃないんだね」
「自由って君のような生活のことだろ?」
「そうだよ。おいらはあの山の向こうまで行ったことがあるよ」
「僕は毎日、近所を散歩しているから、それで充分だよ」
「そうなんだ」野良犬は通りの向こうへ目をやった。
飼い犬は言った。
「あの山の向こうには何があるんだい?」
「お花畑ときれいな川があるよ」
「庭にも少しだけお花があるけど、もっと凄いんだろ?」
「ああ、おいらの目が見渡す限り、何処までも咲いているんだ」
「いいね」飼い犬は遠くを見つめた。
「君も毎日ご飯が食べられて、いいじゃないか」
「そうだね。でも山には行けないよ」飼い犬が呟いた。
「どっちも手に入ったら、本当は一番いいんだけどね」野良犬は遠い目をして言った。
「僕もそう思うよ」飼い犬も同意した。
「おいらたちは、飼い犬と野良犬の2種類のどちらかなんだね」
「そうだな。正確に言ったら、全部違うんだろうね」飼い犬は思慮深げに言った。
「そうなんだ」
「飼い犬も色々。野良犬も色々だろうね」
「どういう意味だい?」野良犬は不思議そうに首をかしげた。
飼い犬は説明を始めた。
「そうだね、飼い犬の中にはエリート飼い犬という連中がいる。血統証付きが条件で、優雅な暮らしをするんだよ。ブランド品の缶詰を食べたり、人間と同じように服まで着ている奴もいるんだ。出世する為には更に訓練を重ねてトップになるんだよ。
僕は雑種だから生まれた時からそんな資格は無いんだけどね。」
「それからどうなるんだい?」
「さあ、どうだろうな。金の首輪でもするんじゃないかな」
「それって、食べられるの?」
「食べられないよ」
「そうなんだ・・・。それから?」
「そうだな、こんなのもいるよ。飼い犬なのに大げさに自由を語る連中。彼らの脳味噌は不満と愚痴でいっぱいさ。結局のところ自分のやっていることに自信が無いのさ。俺はこのままじゃ終わらない!なんて言いながら朝になればまたお手をしている。言ってる事と、やってる事がバラバラでよく分らないけど、結局一生愚痴りながらも飼い犬でいる奴が大半だね」
「君はどうなんだい?」
「僕は分をわきまえているただの飼い犬だよ」
「なるほどね」
「野良犬の中にもいるだろう?同じだよ」
「そうだね、ただの野良犬もいるし、飼い犬に憧れる野良犬もいるよ。それに野良犬の中には、運良く飼い犬の様な豪華な生活が出来る奴もいるんだよ」
「無理だよ。どうやって?」
「人気者になるのさ」
「人気者ね・・・」
「そうだよ。自分の特技を極めて、人気者になるのさ。でも
成功した頃には、いつの間にか飼い犬になっているって、落ちがあるんだよ」
「なんとなく分るような気がするよ」飼い犬はニヤリと笑った。
「野良犬と飼い犬のどっちが幸せなんだろうね?」野良犬は呟いた。
「多分、どっちも同じだと思うよ」飼い犬は言った。
「そうだろうね。どっちも同じだね」野良犬も言った。
「結局、人間様が全てを決めるんだから、どうにもならないよ」
「運命ってやつかな」
「僕がいつか自分でこの首輪を食いちぎることが出来たら、運命を変えられるかも知れないけどね」
「おいらも、我慢して手を上げたり、座ったり出来る性格になれたら、運命を変えられるかもね」
「与えられたものに満足するべきなんだよ」
「感謝もね」
「お腹が空いたら、また遊びにおいでよ」
「それじゃあその代わりにおいらは、君の知らない世界の事を君にたくさん話してあげるよ」
「うん。さようなら」飼い犬は言った。
「またね」野良犬も言った。
その時、何処からともなく聞えてきた犬の遠吠えが、
夕日に染まった路地に響いた。
2匹の犬はそれぞれ顔を見合わせて大声で笑った。
そしてそれぞれの運命へと帰って行った。




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