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2010.07.05 16年
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1961年7月2日偉大な父が死んだ。
名前はアーネスト・ミラー・ヘミングウェイ。
1961年と言えば、昭和36年である。
僕が生まれる約3年前のことだ。
彼は最後に自殺した。猟銃自殺であった。
僕は現在、物書きをやっているが彼に影響を受けたことは、悔しいが否定できない。
僕が27歳の頃に経営していたレストラン&バーの名前も「ニックの店」だった。
それも、ヘミングウェイの短編小説の主人公の名前から取った。
店をやっていた3年間、僕はサーファーやバイク乗りから「ニック」と呼ばれていて、
その心地よい響きをとても愛していた。
ヘミングウェイは62歳という生涯を自ら閉じた人だが、その気持ちはよく分かる。
彼の作品は全部読んだし、彼について書かれている研究論文もかなり読んでいる。
しかし、僕が理解しているヘミングウェイは、どの研究論文の結末とも違うのだ。
7月にはいってふと命日に彼のことを考えた。
彼は62歳で死んでいる。そして今僕は46歳だ。
電卓を叩いて計算すると「16」という数字が出た。
若い頃は青春がいつまでも続くような気がしていたが、そうでもないらしい。
少なからずこの世を去った友人もいる。
「16年」残り「16年」だとしたら?
なぜか、急に不安が込みあげた。スコッチをすするスピードが速まった。
すると、ふわりと彼が現れた。
彼は白い髭でニヤリと笑った。
彼は片手にあのカリブ海の似合うフローズンダイキリを手に笑っていた。
青い海原のような、それでいて深海のような瞳で僕に笑いかけた。
彼はグラスを僕の前に差し出すと乾杯の仕草をしてみせる。
僕のグラスにはスコッチウイスキーのティーチャーズのロックが握られている。
カチン!とグラスが音を立てて鳴る刹那に僕は見た。
彼のもう片方の手に握られている猟銃を。
スコッチが、ゴクリと音を立ててのど元を焼いて胃に落ちていくのを感じた。
彼に何か質問をしようとすると、横に座れと手招きをする。
その様子を見ていたバーテンダーは慌ただしくミキサーをまわす。
やがて僕の前には冷え切って汗をかいたフローズンダイキリが提供される。
赤とか黒といったストローではなく、短くて太いストローが一本添えられている。
彼は満足そうな顔をしてまたグラスを高くかざした。
カチン!と音が鳴り響いた。
彼のもう片方の手はまだ猟銃を握ったままだ。
しかし、僕はそのことがもう気にならなくなっていた。
後ろを振り返れば、開け放たれた窓からは青い海と砂浜が見える。
遠いマリーナには、彼の愛艇のヨットが主人を待っている。
僕は彼と砂浜に出た。
彼は、陽気で若い女たちを紹介してくれた。
「これから、みんなで海へと繰り出すから、君もどうかね?」と言う。
僕は頷いて遠いマリーナへと歩き出す。
ヨットのある場所まで彼と二人で歩く。焼けた砂浜を。
沢山聞きたいことがあった。しかし、出来るのは釣りの話だ。
人生の謎について問うには、空と海は青すぎるのだ。
陽気な女たちとヨットに乗り込むと帆に風を受けて船体は進んでいく。
「何処へ行くんだい?」と彼に叫んだら。
彼は、少し首をかしげながら言った「どこでもいい」と。
僕は「遠くに見える岬まで行こう」と叫んだ。
彼は何もかも見透かしたように微笑みながら親指を立てて笑った。
彼は大きく舵を切って岬に進路を変えた。
さっきまで彼が持っていた猟銃は足元に置かれていた。
「16」その時、またその数字が浮かんだ。
そして、海を渡る風がその数字をかき消していった。
短いようで、長いような航海の始まりだった。

さて、寝ますか!


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