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風が吹いているのに釣り場へ向かった。
それは近くにある池なのだが、かなりの広さがある。
予想通り水面は波だって何も見えない状態。
こんな日の釣りは釣るというよりも、自由な水の中に自分を泳がせてやりたい気分の時だ。
ルアーを遠くに投げ込み、それを巻いてくると水の中が頭の中で見える。
スイスイと澄んだ水の中を泳いでいるうちに、下界の垢も流れていくという寸法だな。
思えば今年は巨大なニジマスを仕留めただけで、ブラックバスの顔を見ていない。
去年の1匹目は確か4月の下旬だったと記憶している。しかしもう5月だ。
釣り師にとって釣り初めというのは肝心で、それは春なのだ。
その後、もたもたと釣りに行けない月日が過ぎようとも、春に魚をゲットしておけば、それに慰められて年を過ごせるというものだ。
釣りに行けない日や、なんやかんやで行きそびれる日が続くと、四角い升が泥沼に静かに沈んでいくような気分になる。
しかし、春によい思い出を作れれば、その余韻で下界での日々をやり過ごし、思い出に浸りながらウイスキーをすするという実に豊かな時間を持てる。
と言うものの、この台風なみの強風では無理に近い。
もう諦めて帰ろうと、ぼんやり座っていた。
思えばこの場所は去年の初釣りで獲物を仕留めた松の木のある入江だ。
その松の木は水面へと枝を張るように伸びているため、水面との距離は僅か10センチに満たない。
ブラックバスという魚はそんな場所に潜んでいるものなのだ。
僕はオフセットフックを用意し、その先には3インチのゲイリーヤマモトのセンコーをセットした。
と、解説しても釣りを知らない方には何のことやら分からないであろう(笑)
とにかく、それを強風の中で松の枝と湖面の10センチの幅にたたき込まなくてはならない。
岸から水面に張り出した松の枝までの距離は5メートル。
つまり、5メートル先の10センチしかない枝と水面の間に投げなければならないのだ。
僕は自分のテクニックに120%の自信を持っているが、1投でケリを付けなければ魚は逃げてしまう。
このとき詩人は詩を書くよりも集中している(笑)
そして一瞬風が凪いだ瞬間にその時は来た。
ルアーは見事に枝と水面の間をすり抜け更に深部の手の届かないエリアへと到達した。
1秒、2秒・・・水の底へルアーが落ちきる寸前にアクションを入れると、
奴は来た!

彼は水面に姿を見せず、暗い松の枝の下を左右に走り回る。
竿はしなり、枝をよけながらコントロールするしかない。
重く重量感のある彼のパワーに一瞬鼓動が止まりそうになる。
もはや、風も、その音も何も僕には聞こえていない。
静粛で厳格で荘厳な緊張だけが彼と僕の間を一本の細い糸で結んでいるだけだ。
やがて彼は力尽きた。
43センチ。孤高であり高潔であり、勇敢な魚であった。
この見事な魚を目に焼き付け、下界の憂鬱な日々を天国に変えよう。
彼にはその資格があるし、これから先何度も思い出す価値があるだろう。

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その帰りに日本酒を買った。何故か日本酒だった。
彼との一瞬の駆け引きを思い出しながらのんびりするには日本酒が似合いそうな気がした。

風の日の釣り師、天国は意外に近いところにあるものだ。









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