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2010.03.27 山桜
むかし、春の渓流で山桜を見た。
あれは20代の頃だったかもしれない。
その当時、僕は渓流釣りに夢中になっていたから、
4月の解禁には必ず川に出掛けた。
ひとりで1時間ほど川をさかのぼると急に視界が開け、
見上げるとそこには一本の桜の木があった。
何故かしら急に涙が溢れてきてしまった。
こんな田舎の渓流で何故泣いているのか自分でも不思議だったが、
どうにも涙が止まらなかった。
僕は感動していた。
何に感動したのか?
それは山桜が静かに語った言葉にだった。
健気に咲く山の中の桜。
そこには賞賛も喝采もない。
ただ彼女と僕だけが見つめ合っているだけだった。
僕は心の中で彼女に尋ねた「寂しくないかい?」
すると彼女は「いいえ、寂しくないわ」と答えるのだった。
恐らくこの世で彼女に出会ったのは僕だけだろう。
誰も知らない田舎の渓流で僕は彼女と長い会話をした。
40代になっても彼女を忘れたことはない。
よく、理想の彼女は?などと聞かれることがある。
僕の場合それは人間ではない。
そう、あの、山桜だ。
彼女は人生で大切なことは何かを僕に教えてくれた。
それは「誰も見ていない場所でも美しく咲くことの潔さ」だ。
あれから何十年もこの言葉は僕を戒めてきた。
これからもこの言葉を戒めとして、励ましとして生きるだろう。
それが、僕なりの愛情の表し方だから。
賞賛も、喝采もなく、気高く咲く山桜。
そんな女が僕は好きだ。



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