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いらないこども

 僕は小学生という時期にこの世の嫌なものをさんざん見せつけられて育ち、中学生になるといじめられっ子から街の番長へと昇格した。少し長い学生服をあつらえて、髪の毛を染めれば翌日からは不良の出来上がり。後は手当たり次第に暴力で恐怖を植え付ければよかった。
 無力な人間が手に入れたひとつの手法は、いじめられる側にいるより、いじめる側に立つことだった。劣等生で運動も人並みの僕には何も取り柄も無く、自分を救済する方法は不良になることだけだと、その当時は思い込んでいたのだった。
 家にもろくに寄りつかない生活を送っていたので、家族がどうだったかなどすっかり忘れていた。新しい不良仲間も増え、自分たちだけの勝手な世界観の中で日々は足早に過ぎ去っていったのだった。
 やがて、中学を卒業し高校へ行くことになった。高校になど行きたくはなかったのだが、不良仲間と一緒に地元でも有名な不良のたまり場のような私学へ入学した。
 そんなある日、高校から帰宅するとめずらしく父が実家へ来ていた。茶の間では父と祖母が何やら話し込んでいた。父は僕の顔も見ずに「おう」とだけ言った。僕は茶の間を横切り2階の自分の部屋へと階段を上った。
 何やらただならぬ雰囲気を察した僕は、階下での2人の話に聞き耳を立てた。すると父の声が2階にまで響いてきた。
「ばあちゃんが自分で引き取ったんだろう?」
「お前の子なんだから、お前が育てるのが普通だ」
「高校になって金が掛かるからといって、今更こっちによこされても困るんだよ」
「こっちも年寄りの2人暮らしなんだ。ここまで育ててやっただけ感謝しろ」
「それじゃあ、高校を辞めさせればいいじゃないか」
 僕は唖然とした。なんだか頭の中が真っ白になって、ふらふらと自分の学習机の椅子に腰を下ろした。僕は孤独だった。そして何処にも身の置き場のない浮浪者のような気分で、ただ時間の過ぎるのを待っていた。
 その時、階下から僕を呼ぶ父の声が聞こえた。のろのろと階段を下り茶の間のふすまを開けると父が言った。
「お前、学校を辞めろ!」
「なんで?」
「授業料を毎月2万円も払えない」
「そう。別にそれでいいよ」
 僕はそのまま玄関から外に出た。
 高校のことなどどうでもよかった。僕の頭の中には「いらないこども」という事実だけが深く心に残った。誰にとっても不要な存在。
 世間では不良として不要な存在と化していた自分を思い知り、家庭では家族に不要な存在と疎まれ、僕自身も自分が何者で、何のために生きているのかさえ分からなかった。
 その一件以来、僕は更に世間や家族との断絶を強く意識するようになった。生きることの全てを斜めに見るようになった。どんな優しい言葉も、どんな幸運な日も色あせて見えた。僕は「いらないこども」として、これから先をどんなふうに生きていけばいいのかを毎日考えて過ごした。
 しかし、学校を辞める話はそれ以来なかった。父と祖母の間にどのような和解策が生まれたのかは知らないが、誰もその話はしなくなった。しかし、「いらないこども」という事実は何も変わらなかった。
 僕は「いらないこども」として明日も生きてゆくのだ。しかし、自殺しようなどとは、一度も考えなかった。何故なら、悔しすぎる事実を目の前に突きつけられ、死ぬことさえできない惨めな状況だったからだ。
 そしてその事実を変えるのはただひとつだけ、それは自分自身が何者かになることだと考えていた。




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