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落ちこぼれの誕生

 小学校という場所は何かの製造ラインに似ている。デコボコした道路は平らなアスファルトのようにローラーでならされる。
 自分という存在が教師にとってどのように映っていたのかは知りようもないが、田舎の学校がスムーズに日常を送るためには、ある意味で犠牲者が必要なのかもしれない。
「職員室に来なさい」
「なんで?」
「ちょっと聞きたいことがある」そんなおきまりの台詞を何度聞いたことだろう。
職員室から薄暗い部屋に通されると、教師は数名に増え尋問が始まる。
「靴を隠したのはお前だな?」
「隠してません」
「怒らないから正直に言いなさい」
「隠してません」そんなやりとりに途方もない時間を費やしての犯人捜しがはじまり、下駄箱置き場に連行される。
「何処にあるんだ」
「分かりません」
「正直に言いなさい」
「下駄箱の裏に落ちているんじゃないの」
 何気なく口にしたその言葉に反応して、教師たちは重い下駄箱を移動し始めた。すると、なんとその場所には靴が落ちていた。壁との隙間から裏側へと落下したのだろうか。そして、その偶然が証拠になり、犯人はやはり僕という結果になった。 
 数週間すると今度は保健室の前の肝油が盗まれたと、教師は僕ともう一人の生徒を職員室に呼び出した。
「肝油を盗んだのはどっちだ」と教師は尋問する。
「やってません」僕が答える。
「僕もやってません」もう一人が答える。
教師は自信たっぷりな口調で話し始める。
「どちらかに決まっている。正直に言いなさい」
「やってません」僕が答える。
「僕もやってません」もう一人が答える。
その時、担任の女の教師が僕を見下ろして静かに言った。
「こいつだけは信じられん」
 ガラガラと心の中で何かが崩れてゆくのを感じながら、僕は何も答えないまま犯人にされた。
 その後、教師たちは僕を追放するためにあらゆる手段を講じた。時には祖母を学校に呼び出して、「将来、犯罪者になる」とさえ言った。祖母は学校から帰ってくると、激怒して僕の首を絞めて「お前を殺して、私も死ぬ」と泣いた。
 無実の罪であることを証明するのは難しい。そして、残念ながら社会には犠牲者が必要なのだということを初めて思い知らされた日だった。
 ある日、今度は授業中に保健室に呼び出された。白衣を着たおっさんと助手の女が「席に座りなさい」と微笑んだ。席に座るとおっさんは、僕にいくつかの質問をした。
「線路の上に石が置いてあります。あなたならどうしますか?」
「石をどけるか、誰かに知らせます」
「それは何故ですか?」
「汽車が脱線するからです」
そんな質問が何度となく繰り返されて、次はシミのついた本を見せられる。
「これは何に見えますか?」
「これはシミです」
「何かに見えませんか?」
「何かに見えないと駄目ですか?」
「何に見えますか?」
「蝶に見えます」
 おっさんは、何枚もシミを見せては「何に見えますか?」と、質問を繰り返した。
 教師はその後、僕と差し向かえに座り神妙な面持ちで言った。
「あなたのような人は、行く学校が違うのです。検査の結果によっては、別の学校へ行ってもらいます」
 しかし、その言葉がどういう意味を持っているのか僕にはよく分からなかった。
 結果的に、僕は別の学校には行かずに済んだ。しかし、ただひとつ忘れられない言葉を僕は抱えてしまっていた。それは教師が言った「こいつだけは信じられない」というあまりにも痛い決別の言葉だった。





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