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中級ホテルのロビーラウンジのバーカウンターに、
日本企業の出張員らしいオヤジたちが我が物顔でふんぞりかえる。
持参した日本の高級ウイスキーと日本酒を取り出して、
○○ちゃん、これ、ボトルキープね!と、若いホステスに渡す。
持込の酒をキープ?
微笑みの国の女性は笑顔で困惑している。
僕は席を立った。

僕は次の日アユタヤ遺跡を見るためにガイドを頼んだ。
S君は24歳の笑顔の素敵なタイ人で流暢な日本語を話す。
アユタヤまでは1時間半位かかるそうだ。
僕を乗せたワゴン車は高速道路を走る。
レース場のような雰囲気だ。
前方の車との車間距離は2~3メートル。
時速120キロ・・・。
スリル満点ではあるが、命は風前の灯である。

ようやくアユタヤに到着する。が、
帰りもレースに参加しなければならないと考えると
かなりトーンダウンする。
灼熱の無風状態、40度近い温度が容赦なく照りつける。
飲んだミネラルウォーターは汗になって噴きだす。
僕の体はスポンジ状態になり、
いくら水を飲んでもきりがない。
ああ、これが脱水症状か、などと妙に納得したりする。
かつて栄華を極めたアユタヤ王朝の美しい遺跡群を歩く。
廃墟に天を突き刺すような巨大な仏塔が並んでいて、
仏像には皆、首が無い。
S君は苦々しい顔をしながら「ビルマ軍」にやられました。と語った。
しきりに、もったいない、もったいない事です。と言っていた。
タイ人はビルマ軍が嫌いらしい。
こんなに暑いのもビルマ軍のせいだ!などとつまらないジョークに
S君も喜んでいた。

滅びの美学という言葉がふと頭をよぎった。
バンコクの寺院はみな金キラなのに相反してアユタヤは廃墟である。
幻想的な時空の迷路に放り出され灼熱の廃墟に歩を進めると、
あの世ってこんな感じなのかな。
などと訳の分からない幻想にとりつかれる。

旅の途中で僕は仲良くなった彼に不意に質問してみた。
日本の観光客は好きですか?
彼は微笑みながら困った顔つきで答えた。
「キライデスネ・・・」
その後、お互いに顔を見合わせて笑った。
日本人は好きですか?
「ニホンジンハキライジャナイデス」
僕たちはまた笑った。
妙にすがすがしい気分になった。
国籍も人種も超えて
僕たちは同じ地上に生きる人間同士として
ただ、笑った。

いまや廃墟と化した美しいアユタヤ遺跡の
首の無い仏像に夕暮れが迫る頃、
沢山の僧侶たちが夕日を浴びて歩く姿に合掌し
笑顔が素敵で誰よりも正直なS君に別れを告げた。

白でなければ黒
黒でなければ白

しかし真実は灰色
混沌であるが故に人間

それでいいと
誰か僕に言ってくれないか?

生でなければ死
死でなければ生

しかし真実は花
咲きたがるが故に人間
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