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2012.02.27 猫の先生
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夜中に酒を飲んでいると地下にある風呂場から何かがガラガラと倒れる音がした。僕の住む家は吉野建てといって奈良の南部に位置する吉野周辺の民家の建て方だ。要するに傾斜面に張り出すように立っているので道から玄関に入る1階部分が実は2階、その上の2階が3階で地下が実は1階なのだ。(分からなくても話しには関係ありませんよ)それで、その地下からガラガラ音がしたのである。

地下に降りる階段の入り口にはドアがあり、その地下には6畳の部屋と風呂場がある。そのドアの向こうの階段の上には猫の家があるだけ。僕は寝るときは猫を地下室に連れて行き餌をあげてドアを閉める。簡単に言えば地下は猫の空間なのだ。昼はリビングのコタツの中で一日中眠り、腹が空くと出てくるという日々を彼は過ごしている。

その猫のことは以前にも書いたが、僕が川崎に住んでいた頃アパートの近くを縄張りにしていた「ねこねこ軍団」のボスである「シロ足アホ茶ネコ(オス)」と妻の「こげ茶ネコ(メス)」の間に出来た猫である。この2匹の猫は僕が住んでいた7年の間に沢山の仔猫を生んだがどれも生き残ることはなく、みな幼いうちに死んだ。どれも栄養失調気味であり、生き残るかな?と見守っているうちに一匹、また一匹と姿を消すのであった。

そんな中で生き残った仔猫がいた。それがいま飼っている猫である。名前は「凶暴」という。正式名称は「ルードヴィッヒ・グーテンモルゲン・凶暴1世」という。何故凶暴という名前なのかといえば、コイツは眼もよく見えず、細くてショボイのに、餌をあげると大人の猫たちを蹴散らして食べるガッツがあるからだ。ある時、鶏の唐揚げをちぎって投げたら、よそ者の「うす焦げバカネコ」が餌を横取りしようとしてこの「凶暴」にやられた。餌をとろうとした瞬間「凶暴」の猫パンチが「うす焦げバカネコ」の脳天に炸裂し、爪が深々と突き刺さった。あまりの攻撃に「うす焦げバカネコ」は、一瞬固まった。大人猫の3分の1の体格の「凶暴」は彼を打ち負かしたのだった。それ以来彼の名前は「凶暴」になった。季節は冬で、春には僕は奈良に引っ越しする予定だった。このままではコイツもいつか死ぬだろうと思い、引っ越しの際に車に乗せて奈良まで連れてきたのだった。

猫など飼うつもりはなかったのだが、コイツの生きようとする力には感心していたし、野良猫ということもあり、なぜか自分に似ているような気がして情が移ってしまったのだ。簡単に言えば僕はこの仔猫から「生きることを諦めない」ということを学んだのだから、彼を出来る限り幸せにしてあげたいと思ったのである。それが度を過ぎてしまい、彼のために買ったネコハウスで押し入れは一杯になる羽目になった。餌もホームセンターで一番高そうなものを買う。トイレも最新型であり、首輪は京ちりめんの赤い布で一針一針自分で縫ったものに金の鈴を付けて彼にプレゼントしている。ここまで来ると無類の猫好きかと思われそうだがそうではない。これは先生に対する僕の誠意の表し方であり、それが礼儀だと感じているからだ。(やはり猫好き・・・?)

2年前には動物病院に連れて行く途中で彼が失踪!細い住宅街の路地を10日間ほど朝から晩まで探し回った。その辺りの人からは、頭のおかしいオヤジと思われ、「何が凶暴なのですか?」「どうしたのですか?」などと声をかけられる始末。なんせ、名前が「凶暴」なので、毎日朝から晩まで「凶暴?凶暴!」と、大声でわめきながら歩いていたのだから無理もない。このときばかりは「凶暴」という名前を付けたことを後悔もした。そして動物病院の先生から借りた猫用捕獲機を仕掛けて7日目に彼はとうとう戻ってきたのだった。捕まったその日は、捕獲機を返却する約束の日になっていたのでギリギリの幸運だった。この事件で僕は10キロも痩せてしまった。しかし残念なことに安心して食い過ぎたせいか体重は直ぐに元通りになった。

で、夜中のガラガラに話しは戻る。最初はお隣さんが風呂に入っているのかな?などと思いながら放っておいたのだが、しばらくしてドアの向こうでカリカリと音がするので開けてみた。するとズブ濡れになった「凶暴」ふらふらとリビングに入ってきた。電気を点けて階段を見るとそこはびしょ濡れ!慌てて地下に降りて行ったら風呂のフタも風呂桶も水没していた。彼は暖かみの残る風呂のフタの上で寝ようとして水の中に落ちたのである。地下には明かりはなく真っ暗闇。そんな中で彼は必死に浴槽から這い出て助かった。体を入念にタオルで拭いてコタツの中に入れて乾くのを待ったが中々乾かない。時計を見るともう夜中の1時を過ぎている。ようやく半乾きになったのでコタツの電気を付けっぱなしにして仕方なく僕は就寝したのだった。

しかし、結局その夜は眠れなかった。そして、暗闇の中で水に落ちても自力で這い上がってきた彼のことを思った。もしもそれが僕だったらどうだっただろうか?僕は真っ暗闇の水の中から果たして自力で這い上がれるだろうか?そんなことを考えていた。僕も世間様と同じように先行きに不安を感じるただの庶民のひとりでしかない。しかも、僕がやっているような活動は、世の中に必要不可欠なことでもない。なので近頃は「どうなるんだろう?」などと考えることも多い。そんな矢先のできごとだった。そんなとき、猫の先生は身をもって教えてくれる「闇の中から自分で這い上がる勇気を持て!」と。

まあ、こんなくだらない話題で長々と文章を書いていられるうちはまだ幸せなのかも知れない。そして昨夜のショックのせいか、猫の先生「凶暴」はコタツの中で眠ったきり食事もしていない。初めて水に落ちたショックと、浴槽から必死で這い上がることで疲労困憊したのだろう。思えば彼は水に落ちた時も、ドアをカリカリしたときも一度も啼かなかった。不思議だ。ずぶ濡れで細くなってリビングに入ってきたときも啼かなかった。それどころか、どこか威厳に満ちていた。不思議だ。まるで「泣き言を言わずに黙って精進しろ!」とでも教えているようである。なので今日、威厳のない詩人はスーパーで買ったマグロの刺身を感謝のしるしとして猫の先生に献上したいと思っている。

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