2012.12.13 釜山の青空
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北朝鮮がミサイル発射を予告する緊張の中、僕は釜山へと向かった。そして、関西国際空港から1時間半ほどで釜山の金海国際空港に到着。空は雲ひとつ無い快晴だが気温はマイナス。お出迎えのペさんによれば、昨日は釜山市内にも雪が積もったそうだ。2、30年暮らしているそうだが初めての体験らしい。ペさんは、ペ・ヨンジュンの「ぺ」です!と僕たちに自分を紹介してくれた。自国の俳優が日本でも人気であることをきっと誇りにしているのだろう。勿論僕も冬のソナタは観たけどね。韓国は日本のお隣の国なのだが、なぜか今まで訪れる機会がなかった。「韓国と言えばソウル=免税店でお買い物」といった印象が強かったからかも知れない。今回、釜山を訪れたのには理由がある。釜山を経由して慶州に行くためだ。実はここ20日ばかりの間にTSUTAYAでDVDを借り込んで毎日3~4時間ほど観ていた韓国ドラマがあった。それは「善徳女王(そんどくじょうおう)」という韓国の歴史ドラマだ。その舞台となるのが現在の慶州であり、古には新羅(しるら)の都があった場所なのだ。このドラマの話しをすると長くなるので割愛するが、内容自体は史実とフィクションを交えた物語で、展開にもスピード感がありとても面白かった。学生時代に習った新羅や高句麗、百済などが出てくる。ここまで書けば「歴史好き」っぽい感じもするだろうが、結局の所は、ドラマに二人の美女が出ていたのですっかり魅了されてしまったというミーハーな動機でしかないことを白状せねばなるまい。

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釜山には魚市場が軒を連ねるチャガルチ市場と、雑貨やら屋台やらが建ち並ぶ国際市場という大きな市場が二つあるのだがどちらも規模が半端ではない。魚市場には溢れんばかりの海産物が所狭しと列び、ヤッケに長靴を履いたおばさん達が極寒の中で魚を売っていた。もう既に夕方というのに道の両側は魚介で溢れかえっている。この魚は全部売れるのだろうか?売れ残ったらどうなるのだろうか?心配になるほどの量である。また、国際市場の規模も半端ではない。ここでは電化製品から衣類、雑貨から怪しい品物まで何でもそろう。屋台も延々と連なっており、やはりその誘惑に負けて、ホットックという揚げパンの中にナッツと黒砂糖を入れたものを食べてしまった。近頃体重が増えすぎてしまっている僕は初日から危険な予感を感じていた。「また、太るな・・・これは・・・。」である。なのでつまみ食いは程々にして夕食に向かった。夕食はカムジャタンという豚の背骨を煮込んだ鍋なのだが、韓国ではメインの料理を頼むとごはんは勿論、キムチをはじめとする数種類の惣菜がふんだんに付くシステムだ。なので、早速ビールの登場である。結局はこの後も深夜まで飲む羽目になり、危険な予感の序章が始まったのであった。

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翌日は早起きして釜山からいよいよ慶州へ向かう。KTXという新幹線?が、釜山から新慶州まで出ている。まあ、ガイド付きのツアーを頼めば簡単に行けるのだがそれでは旅とは言えないので自力で行く。しかし、漢字なら何となくニュアンスで分かるのだが、ハングル文字ではそうはいかない。全然想像もつかない・・・。新慶州から目的の場所まではバスで1時間以上かかるので乗り継ぎも不安だった。お金の支払い方も知らないし言葉も通じない中、バスの運転手に怒られながら何とか最初の目的地である世界遺産「仏国寺」に到着。するとサングラスをかけたオジサンが早速声をかけてきた。「クワシイセツメイガアレバ、サラニタノシイデスヨ!セツメイシマスカ?」僕はこのオジサンを勝手に地元のボランティアガイドか何かだと思い、「おねがいします!」などと言ってしまった。なんせそのオジサンは「オカネハ、カカリマセン!」とにこやかにしているからだ。まあいい。オジサンは流ちょうな日本語で丁寧に説明してくれた。おまけに「ソコニタッテ、シャシンヲトリマショウ!」などと、やけに親切だった。親切すぎて不安にもなったのだがまあいいか!などと思いながら一通りガイドは終わった。しかし、オジサンは帰りの仏国寺のバス停までついてきた。あれ?っと思っていたら、オジサンがついに口を開いた。「ワタシノイエハ、バステイノスグチカクデス。メンゼイテンヲヤッテイマス!サムイカラ、ソコデオチャヲノミマショウ!」と・・・。やっぱりこのオジサンはボランティアガイドなどではなかった・・・。しかし、親切にガイドをして写真まで撮ってくれたオジサンに断る勇気がなく、とぼとぼと免税店?に向かう。この辺りが、日本人の良いところというか、悪いところというか、微妙な習性であるので仕方がない。男子たるもの恩を受けて、はいさようなら!というのは礼儀に反する。

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オジサンは、いよいよ早足になり、免税店?に到着「ミルダケ!カッテモ、カワナクテモOK!」などと仰るが、仕方がないので安い携帯ストラップを購入した。この日は朝飯を食っていなかったので「腹が空いたから帰ります」と言って店を出ようとした。しかしオジサンは待ってましたとばかり、「サイコウニ、オイシイオミセガアリマス!」と言ってはりきりだした。それは隣の食堂だった・・・。次の目的地に行かねばならないと説明してその場を立ち去ろうとしたのだが、「ソノアトニキタラ、イイデスヨ!」などと言う。仕方がないので適当に「また後で!」などと言いながらそそくさとバス停に行き、次の石窟庵に向かった。

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石窟庵も新羅時代のもので、山の上にある。やはり今日も雲ひとつない快晴なのだが気温はマイナス。顔が凍りそうになるのを我慢しながら山道を行けば、やがて、かつての新羅の都を一望できる絶景があった。石窟庵の岩屋の中には大きな石仏があるのだが、残念ながら撮影禁止なので写真はない。近くにいたガイドの話を盗み聞きして知ったのだが、この石仏は見る人の気持ちによっては、仏像の顔がやさしく見えたり、怒って見えたりするのだという。確かにそんな不思議なお顔の仏様であった。見終わって、寒さに朦朧としながらまたあのオジサンがいたバス停まで山を降った。「また後で!」などと言ったものの、別の食堂でもいいか!などと思っていた。しかもバス停にオジサンの姿がなかったので安心した。しかし、バスを降りると・・・今度は食堂のオバサンが立っているではないか!オバサンは僕を見つけると必死に手招きをして「コッチ!コッチ!」と言う。オバサンは意外に日本語が堪能である。思えば寒いバス停でこのオバサンはずっと僕を待っていたのだ・・・。なので、当然のごとくオジサンイチオシの食堂へ行く羽目になった。

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食堂でのオバサンの切れのある動きに見とれながらメニューを見ていると、味噌チゲなるものを発見し、オバサンに「これが食べたい!」と言った。しかし、味噌チゲなどまったく作る気がないらしく「ビピンパ!アッタカイ!ママガ!ツクリマス!」と、張り切っている。もう、ビビンパでも何でも良くなってきたので待っていると、野菜のチヂミが登場、続いてキムチに、よく分からない惣菜が10品以上出てきた。そして揚げた魚も出てきた。もうどうでも良くなって片っ端から食べ始めた。すると「サムイカラ、マッコリヲ、ノミナサイ!」とマッコリのパックからなみなみと酒を椀に注ぎ始めた。こうなればいくしかないのでどんどん飲んだ。ビビンパも味噌汁も登場し、テーブルの上には、どう見ても喰いきれない程の料理が並んだ。そして、この料理のどれもが旨かった。釜山で食べた食堂の料理よりもこっちの方が断然旨い。地元の味、そして長年培った主婦の味である。酒も入り、気分がとても良かったし、あのオジサンが「イチバンウマイ!」と言っていたのも本当だった。そして、食べているとまたあのオジサンが戸を開けて顔を出し、「オイシイデショウ!」といって親指を立てて笑った。こちらもすっかり上機嫌になり「美味しいです!」と、まあ、そんな乗りになり、帰りには写真までご一緒した。チヂミに揚げ魚に酒まで飲んで代金は10,000ウォン(約800円)だった。巧妙な手口と堪能な日本語で免税店?に誘い込む逞しいオジサンと慶州のオモニ(お母さん)に感謝してその場を後にした。

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その後は、新羅ミレニアムパークという歴史のテーマパークを訪れた。閑散期なので観光客は少ないが、ここも目的地のひとつである。入り口には善徳女王のポスターも貼られ、憧れの美女とようやく再会した気分だった。

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ここでの見物は花郎(ファラン)という新羅時代の兵士のショーだろう。善徳女王を観ていない人には分からないかも知れないが、この日はここでふたつのショーを観た。1つは当時の戦いを描いた演劇風のショーで、これまたスケールが大きい。テーマパークの背景がセットになっており、城壁が開いて宮殿が出てきたり、手前の池には巨大な船が登場して水上戦が再現された。もうひとつは、武芸のショーで、剣術や馬術を見せてくれる。いずれにしても客が少ない中でみな懸命に演じている姿には感銘を受けた。

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もうすっかり日が落ちてしまい、寒さは尋常ではなくなったが、最後にどうしても観なくてはならない場所があった。それは善徳女王が建てたと言われている東アジア最古の天文台チョムソンデである。これもドラマの中に登場するので観ていない人にはよく分からないだろうが、時節柄ということもあってか周りにはクリスマスのイルミネーションが延々と続いていてとても美しかった。寒さを堪えてここまで来た旅人への褒美のようだった。

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韓国といえばキムチに焼き肉、そして美女である。そしてこのように焼酎の瓶にも韓国美女が印刷されている。まあ、別に普通の焼酎ラベルもあるのだが、ついつい美女が印刷されているものを頼んでしまう。とにかく釜山は食べ物が美味しかった。屋台などは、数十円から数百円程度で食べれてしまうし酒も安い。2リットル入りの焼酎でC1という釜山市民御用達の酒があるのだがこちらは日本円で約400円程度。マッコリの1リットルは80円で味も良い。勿論おみやげはこれらを大量に買ったのだが、空の旅行鞄が全部酒で埋め尽くされ尋常ではない重さになった。釜山は食の都と言っても過言ではないかもしれない。チャガルチ市場や国際市場、どこに行っても大阪以上の食い倒れの街である。出発前に田舎だと思っていた釜山は美しい港のあるお洒落な都会と、人々の生きる熱気が感じられる混沌が入り交じった街であった。

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最近は竹島問題などで日本と韓国の関係も悪化しているというが、今回の旅でそんなことを感じることはまったくなかった。それどころが、韓国の人々はとても親切で温かかった。どの旅でも同じなのだろうけど、やはり心に残るのは「人との出会い」なのだろう。僕には日本に在日の友人もいるのだが、その中の友人が以前こんなことを言ったのを覚えている。「日本人はどうだとか、韓国人はどうだとか、簡単にレッテルを貼ってしまうけど、日本人にも良い人もいれば悪い人もいるし、韓国人だって良い人もいれば悪い人もいるのですよ」と。その時僕は、先入観を捨てて真っ直ぐに「人」を観ることの大切さを学んだ気がした。ニュースでは反日感情が増大していると連日のように報道されている日中、日韓の問題、それに北朝鮮。確かにそこに問題はあるのだろう、しかし、例えそれが事実であり簡単に解決できないことだとしても、僕たち庶民までこぞって反目し合う必要はない。反対にこんな時代だからこそ庶民は変な先入観や偏見を持たずにお互い交流するべきなのかも知れない。帰国する日に北朝鮮がミサイルを発射した。この街で懸命に暮らす人々と気まぐれな旅人の頭上をミサイルは飛んでいったのだろうか。雲ひとつない釜山の青空、見えない場所で交錯する国家同士の諍い。僕たち庶民は本当に無力なのか、そんなことを考えずにはいられなかった。

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魚を売る元気なかけ声
湯気の上がる屋台の熱気
それでも
僕たちの上をミサイルは飛んでゆく

懸命に生きる人々
街角をゆく恋人たち
それでも
僕たちの上をミサイルは飛んでゆく

優しく温かな人々
心に残る慶州のオモニの笑顔
それでも
僕たちの上をミサイルは飛んでゆく

地球の片隅で慎ましく暮らす人々
ありふれた日常のかけがえのない時間
小さき僕たちの毎日が
いつまでも平和でありますように

GOOD BYE BUSAN


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