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クロがいなくなった
クロはたぶん死んだ
クロの座布団は隅に放られ
クロのブリキの餌箱はもうない
あるのは散らかったドライフードが3粒だけ
路地の曲がり角の小さな家の前からクロは消えた

クロは毎日寝ぼけながら世界を眺めていた
クロは通り過ぎる人々の人生を見つめた
クロは頭を撫でられることを許し
クロは人の身勝手な感情に優しく答えた
この曲がり角は淋しくなった
だけどクロがいた温かさはそこに残っている

クロは痩せていて牙もガタガタ
クロは頭の上の上に蜘蛛の巣を引っ掛けている
クロは眩しそうに目を細めて鳴いていた
クロは僕をいつも元気づけた
僕がクロのいた曲がり角で手を合わせると
風に舞った木の葉が一枚クロのいた場所に落ちた

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2022.11.04 ラ・フランス
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スーパーの店先に果物の露店が出ていた

のぼりには岩手県の宮古市の文字

でも露店の半分には山形県南陽市と書かれた値札

ラ・フランスとシャイン・マスカットが並ぶ

僕は1キロ500円のラ・フランスを買った

気のよさそうなオヤジがありがとうと言った

宮古市からですかと僕は話しかけた

するとオヤジは歩いてきたのだと冗談を言った

宮古の人がなぜ南陽の果物を売るのか尋ねると

私たちは震災の時に山形の人に大変助けられました

しかし今回は豪雨で南陽が被害に遭った

少しでも手助けになればと思い南陽に寄って果物を仕入れてね

オヤジは日に焼けた顔で笑った

僕は自分が山形の酒田市生まれだと伝えた

そうですか酒田にも行きますよとオヤジは驚いた表情を見せた

互いに東北なまりのある標準語が優しく風を揺らした

何故か懐かしい人に出会った気がした

僕が東北を離れてから27年が過ぎた

故郷を捨てた僕は東北の人々の27年間を知らない

記憶にあるのは東日本大震災で変わり果てた街並みと原発

しかしどのように人々が支えあって生きてきたのかを知らない

僕は僕のいなかった東北の27年間を想像した

隣国の北朝鮮からミサイルが発射され空の上を通過していった今日

東北にJアラートが鳴り響き誰もが不安になった日にも

地上の片隅では隣人の手助けにと果物を売るオヤジがいる

僕は僕の知らない東北の人々の友情と絆に思いをはせた

そして少し形の悪いラ・フランスを抱きしめた

2022.11.02 カタツムリ
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歩道に迷い込んだカタツムリ
それを老婆の優しい手が拾う
今日を生き延びた小さな生命
物言わぬ彼の代わりに僕は礼を言う
心の中で誰にも聞こえないように

カタツムリを助けた老婆が遠くなる
狭い歩道に優しさの余韻を残して
優しい手に救われた小さな生命
弱き者だからこそ知る弱き者への慈しみ
それは狭い歩道にいた神の後ろ姿

救われたカタツムリに自分を見る
誰かの優しい手を思い出そうとしている
僕は拾い上げられたカタツムリ
言えなかったありがとうの代わりに
僕は君というカタツムリを拾い上げたい



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スーパーの豚ロースの薄切りパック
きれいな桃色の肌が並んでいる
しかし折り重ねられた最後尾の何枚かには
肉屋の不誠実な脂身が乗せてある
昭和が平成になり令和になっても
日本全国津々浦々まで
このお約束の風習が続いているのだろう

お客さんは買う前からそれを知っている
隠された脂身が見えるわけでもないのに
何度もパックをひっくり返しては品定めする
不誠実な肉屋だと知りながら金を払う
台所で脂身をそっと除けてはお決まりのセリフを呟く
だけど文句を言いには戻らない
不思議でおおらかな優しいお客さん

スーパーの牛ステーキのスライスパック
瑞々しい赤色がしっとりと蛍光灯に映える
少し厚めに切りそろえられた肉の裏側には
肉屋の不誠実な脂身が残されている
すぐにばれるインチキを毎日繰り返す滑稽さ
誰が教えたでもない暗黙のルールと予定調和
今日も肉屋は肉の下に脂身を隠す

お客さんは誠実な肉屋を知っている
しかし何倍もの値段に店の前を通り過ぎるだけ
誠実さは商売の基本ではない
不誠実な肉屋と知りながら付き合うのが日本人の美徳
でも心配することはない誠実さは金で買えるのだから
今日も肉屋は肉の下に脂身を隠すだろう
そして優しいお客はありがとうと言って店を出るだろう

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喜びの親友は悲しみだけど
決して一緒には遊びに来ない
喜びがまいた種を後から悲しみが拾ってゆく
僕の中には願いだけが広がり
殺伐とした荒野を染める夕日を今日も眺めるだけ
親友たちはそこに涙だけを残して立ち去る
もしもこの友人が喧嘩別れしたなら
理想の日々が手に入るだろうか
それとも退屈な人生に僕は飽きてしまうだろうか


幸せの恋人は不幸なのだろう
だから手を取り合ってやって来る
幸せは返さねばならない借り物だから
愛し過ぎないようにと不幸が小さな声で忠告にくる
いつまで経っても買えない幸せを
夢に見ながら僕は今日も一喜一憂している
もしもこの二人が別れる日が来たなら
理想の人生に安堵できるだろうか
それとも幸せの中で僕は幸せを見失うだろうか